be with you [あなたと一緒に] 23 [SPEC]
遠のく意識の中、叫声を聞いた・・・
いや、確かに聞いたような気がした。
なのにその声が誰のものなのかは分からない。
体は熱くて麻痺しているように動かないが、
それはまだ心臓が止まっていないということだ。
人間、そう簡単には死ねないらしい。
寄せては返す、波のように喪失感と穏やかな気持ちが交互に胸の中に広がっていく。
波音がざわざわと音を立てる度に、まるで何かが抜けだして行くようだ。
『ここはどこだ?』
はっ、としたように突然目を見開き、瀬文は2日振りに目を覚ました。
「誰だ、お前?」
目の前に立つ女が自分を見つめる視線を感じてに瀬文が声を発する。
「へっ? 瀬文さん?
今日はエイプリルフールじゃないっすよ。そんな冗談笑えませんて・・・」
――頭、打ったか? 打ったのか? 打ちどころが悪かったのか?
まさか記憶喪失とか? な、バカな・・・。
戸惑う当麻をよそに瀬文は眉間を寄せて、何かぶつぶつと言いながら考え込んでいる。
「ぼさぼさ頭・・・、よれよれスーツ・・・、 赤いキャリー・・・、魚顔のブス・・・
んでもって、餃子くせぇ! おま・・・当麻か?」
「そうっすよ。あたしの認識の仕方、大分失礼っすけどねー」
――良かった。少なくともあたしのことは忘れてないんだ。
「どうでもいいが、何だ! その目の下のクマ。いつも以上にブスだな」
と、さらに不貞腐れ気味の当麻に追い打ちを掛ける。
――あんたのこと心配であんまり寝てないんだろーが!
「うっさーにゃ、おみゃーは!
顔中、絆創膏だらけのヤツに言われたくないんすけど」
――まったく、この男はいつも満身創痍だ。
「ところで、俺は何故ここにいる?」
「ホントに覚えてないんですか? 事件のこと・・・?」
――そりゃ、忘れたくもなるか・・・。
「そうじゃねぇ。ただ・・・」
「ただ?」
「何で撃たれたのか、浅倉の野郎やお前と何を話したのかが思い出せん」
「そうっすか。
じゃあ、瀬文さん。これからあたしがする質問に答えて下さい」
「・・・ああ」
「瀬文さんの所属先は?」
「公安部公安第五課未詳事件特別対策係」
「海野って誰?」
「ここの医者」
「ニノマエ」
「知らん!」
「青池里子、青池潤」
「昔の女とその子供」
「へぇ~? 嫁と子供じゃ?」
「くだらなんこと言うならもう答えん!」
「すんません。続けていいっすか?」
「しょうがねぇ」
「SPEC」
「ん? 知らん!」
「里中さん」
「先輩」
「津田」
「知らん!」
「志村」
「後輩」
「これは?」
「知らん! 何だそれ?」
質問の最後に当麻が見せたのは、元は小さな仏像だった割れた木片だった。
『やっぱり・・・』
波動関数上の解を導き出すまでもなく、当麻の脳が答えを導き出していた。
あの世界の瀬文は目の前にいる瀬文に命を繋ぎ、廃墟のような殺風景な檻の中で、その命を終えたのかもしれない。
そして、あの時ずっと会いたかった『当麻沙綾』を掴まえて一緒にどこかへ行ったに違いない。
結局、目の前の瀬文は瀬文であって瀬文ではないということだ。
『どうせなら、あたしのこの記憶も消してけよ。バカ瀬文』
今はもう薄くなったロープで縛られた時についた手首の痕を見ながら当麻は一人納得するように頷いた。
「おい、当麻?」
「大丈夫、大事なことは忘れてません。ちょっと頭打っただけですよ。そのうち思い出しますって」
「そうか・・・」
瀬文が拍子抜けしたように呟いた。
「あ、いらないなら、これ貰っていいですか?」
握っていた木片を再び瀬文に見せる。
「どうするんだ、そんなもの?」
という瀬文の問いかけには返事をせず当麻はキャリーを引いて病室を後にした。
当麻が部屋を出るまでの間、瀬文の視線が途絶える事は無かった。
何故なのか瀬文は去っていく当麻の姿を見てふっと笑った。
それは当麻が見れば違和感を覚えるであろう程の屈託のない柔らかな笑顔だった。
だが、その方がきっと瀬文の本来の顔なのである。
現実の時間にすれば1年余りはあろうと言うのに、今では一瞬のことのように感じられる。と同時にこれは、
互いの命を預け、魂を分かち合い、全てを超越した固い絆で結ばれたあの世界の瀬文との関係の終わりの始まり。
当麻の胸は運命が流れて行く感覚と冷たい喪失感に包まれていくのだった。
せっかくいい感じになったのに、また振り出しに戻してどーする!
と怒られるかもしれませんねぇ。
でも、大丈夫この二人はいつか絶対に幸せになれるはず。
と信じて書き進めることにします。(笑)
では、また。
いや、確かに聞いたような気がした。
なのにその声が誰のものなのかは分からない。
体は熱くて麻痺しているように動かないが、
それはまだ心臓が止まっていないということだ。
人間、そう簡単には死ねないらしい。
寄せては返す、波のように喪失感と穏やかな気持ちが交互に胸の中に広がっていく。
波音がざわざわと音を立てる度に、まるで何かが抜けだして行くようだ。
『ここはどこだ?』
はっ、としたように突然目を見開き、瀬文は2日振りに目を覚ました。
「誰だ、お前?」
目の前に立つ女が自分を見つめる視線を感じてに瀬文が声を発する。
「へっ? 瀬文さん?
今日はエイプリルフールじゃないっすよ。そんな冗談笑えませんて・・・」
――頭、打ったか? 打ったのか? 打ちどころが悪かったのか?
まさか記憶喪失とか? な、バカな・・・。
戸惑う当麻をよそに瀬文は眉間を寄せて、何かぶつぶつと言いながら考え込んでいる。
「ぼさぼさ頭・・・、よれよれスーツ・・・、 赤いキャリー・・・、魚顔のブス・・・
んでもって、餃子くせぇ! おま・・・当麻か?」
「そうっすよ。あたしの認識の仕方、大分失礼っすけどねー」
――良かった。少なくともあたしのことは忘れてないんだ。
「どうでもいいが、何だ! その目の下のクマ。いつも以上にブスだな」
と、さらに不貞腐れ気味の当麻に追い打ちを掛ける。
――あんたのこと心配であんまり寝てないんだろーが!
「うっさーにゃ、おみゃーは!
顔中、絆創膏だらけのヤツに言われたくないんすけど」
――まったく、この男はいつも満身創痍だ。
「ところで、俺は何故ここにいる?」
「ホントに覚えてないんですか? 事件のこと・・・?」
――そりゃ、忘れたくもなるか・・・。
「そうじゃねぇ。ただ・・・」
「ただ?」
「何で撃たれたのか、浅倉の野郎やお前と何を話したのかが思い出せん」
「そうっすか。
じゃあ、瀬文さん。これからあたしがする質問に答えて下さい」
「・・・ああ」
「瀬文さんの所属先は?」
「公安部公安第五課未詳事件特別対策係」
「海野って誰?」
「ここの医者」
「ニノマエ」
「知らん!」
「青池里子、青池潤」
「昔の女とその子供」
「へぇ~? 嫁と子供じゃ?」
「くだらなんこと言うならもう答えん!」
「すんません。続けていいっすか?」
「しょうがねぇ」
「SPEC」
「ん? 知らん!」
「里中さん」
「先輩」
「津田」
「知らん!」
「志村」
「後輩」
「これは?」
「知らん! 何だそれ?」
質問の最後に当麻が見せたのは、元は小さな仏像だった割れた木片だった。
『やっぱり・・・』
波動関数上の解を導き出すまでもなく、当麻の脳が答えを導き出していた。
あの世界の瀬文は目の前にいる瀬文に命を繋ぎ、廃墟のような殺風景な檻の中で、その命を終えたのかもしれない。
そして、あの時ずっと会いたかった『当麻沙綾』を掴まえて一緒にどこかへ行ったに違いない。
結局、目の前の瀬文は瀬文であって瀬文ではないということだ。
『どうせなら、あたしのこの記憶も消してけよ。バカ瀬文』
今はもう薄くなったロープで縛られた時についた手首の痕を見ながら当麻は一人納得するように頷いた。
「おい、当麻?」
「大丈夫、大事なことは忘れてません。ちょっと頭打っただけですよ。そのうち思い出しますって」
「そうか・・・」
瀬文が拍子抜けしたように呟いた。
「あ、いらないなら、これ貰っていいですか?」
握っていた木片を再び瀬文に見せる。
「どうするんだ、そんなもの?」
という瀬文の問いかけには返事をせず当麻はキャリーを引いて病室を後にした。
当麻が部屋を出るまでの間、瀬文の視線が途絶える事は無かった。
何故なのか瀬文は去っていく当麻の姿を見てふっと笑った。
それは当麻が見れば違和感を覚えるであろう程の屈託のない柔らかな笑顔だった。
だが、その方がきっと瀬文の本来の顔なのである。
現実の時間にすれば1年余りはあろうと言うのに、今では一瞬のことのように感じられる。と同時にこれは、
互いの命を預け、魂を分かち合い、全てを超越した固い絆で結ばれたあの世界の瀬文との関係の終わりの始まり。
当麻の胸は運命が流れて行く感覚と冷たい喪失感に包まれていくのだった。
せっかくいい感じになったのに、また振り出しに戻してどーする!
と怒られるかもしれませんねぇ。
でも、大丈夫この二人はいつか絶対に幸せになれるはず。
と信じて書き進めることにします。(笑)
では、また。
ラブラブは遠い…ってことですね。
って、そんな身も蓋もない言い方…。(爆)
ここからウェディングにどう繋がるのか、
非常に楽しみです♪
by igara (2014-04-08 11:13)
ラブラブは遠い(?)かもしれませんが、確実に何かが変化しているように思います。
そして、色々と決着がついていきます。
まあ、周りがほっとかないっつーことで(笑)
いちゃらぶな二人も見た見隊。(←だったら書けよ!)
by とんとん (2014-04-13 14:55)