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be with you [あなたと一緒に] 24 [SPEC]

廊下から聞こえてくるのは
ワゴンで何かが運ばれていく音。看護師の話し声、見舞客の笑い声。
外を見ればすっかり葉を落とした木々達は寒そうだが、病室は日差しに包まれて温かかった。

病院での一日は、何度入院しても、どんなに慣れても退屈なもので
まして、ベッドの上とはいえ起き上がれるようになっては尚更だ。

あれから10日は経つというのに、一度も顔を出さないどころが電話にも出やしない。

「まったく・・・。当麻のヤロー、何をむくれてやがる」

誰に聞かせるともなく、瀬文は一人呟いていた。


大きめの靴音が病室の前で止まる。軽いノックの後、返事を待つこともなく扉が開いた。

「よう、調子はどうだ?」

相変わらずの人懐っこい笑顔で片手を歩く上げ、里中が中に入ってきた。

「先輩?」

精一杯背筋を伸ばし、瀬文はいつものように敬礼した。

「その様子なら大丈夫そうだな。けどな堅ぇんだよ、お前は。
 これ。お見舞いだ」

里中はフルーツの籠盛りをひょいと瀬文の視線に持ち上げる。

「はっ、ありがとうございます」

「ったく・・・。
 これは、お前にというより当麻ちゃんにだぞ」

ニヤリと片方の口角を上げ、サイドテーブルに籠を置きながら言葉を続ける。

「そういや、当麻ちゃんは? 今日はまだ来てないのか?」

「それが・・・」

「どうした?」

「ずっと顔も出さず、電話にも出ません」

「ふ~ん。どうしたんだろうな? あんなに心配してたのになー。
 知ってるか? 当麻ちゃんなー、お前が目を覚ますまで片時も離れなかったらしいぞ」

そう言えばと、瀬文は目を覚まし見た当麻の疲れた様子と目の下のクマを思い出していた。

「おまえ、何か余計なこと言わなかったか?」

「いえ、自分は別に・・・。ただ、当麻によれば自分の記憶が少し飛んでるようで」

「そうか。でもさすがに青池のことは覚えてるよな」

「はい」

「実は、あいつのことで話があってきた」

「里子の?」

「なあ、瀬文。
 当麻ちゃんの前で青池のこと『里子』って呼ぶのはやめとけよ」

「何ででありますか?」

「そんなこともわかんねぇようだから、お前は女にモテねぇんだよ」

里中の表情が軽い笑顔から真剣なものに変わる。

「瀬文、潤ちゃんのこともちろん知ってるよな。
 で、あの娘のことどう思ってる?」

「里子は、俺の子供ではないと言ってましたが」

「お前、その言葉を信じたのか?
 まあいい。これから俺の話すことを黙って聞け」」

「・・・」

「あのな、お前の前から姿を消してから暫くして
 あいつは自分が妊娠していることに気がついたそうだ。

「じゃあ、やっぱり潤は俺の・・・?」

「瀬文、ちょっと待て。話は最後まで聞け」

「あいつは、自分に宿る小さな命のことをお前に告げることなく
 一人で産んで育てる決心をした。

 定期健診で行った病院である女性と出会い、
 その人も自分と同じ選択をしたことを知った。

 二人は姉妹のように仲良くなり、悩みやお腹の父親のこと
 何でも話しあったらしい。

 その女性が、出産後、青池が付き添い退院した日に悲劇は起きた。
 不幸な交通事故だった。

 青池は大怪我こそしなかったが、お腹の子供を失った。
 女性の産んだ子供は無事だったが、その子は母親を失った。

 その女性は亡くなる直前、絶え絶えの息で自分の子供を青池に託したそうだ。
 その子供が潤ちゃんだ。 だから、潤ちゃんはお前の子供じゃねぇ」

「だが・・・、
 もしかしたら、青池は潤ちゃんを失ったお前の子供だと思って育ててきたのかもしれん」

瀬文は喉の奥が乾いてひりつくのを感じた。

里中の話に言葉を失う瀬文の眼差しは怯えの影さえ含んでいる。

「青池は絶対にお前には言うなと言っていたが、
 俺はお前には本当のことを知る権利も義務もあると思う。だから話した。
 でも、責任だなんだのと言い出すなよ。あいつはそんなこと望んじゃいねぇ。

 真実は時として残酷だ。だが、それを乗り越えなければ前には進めん。
 青池とちゃんと話せ。過去と向き合え。自分の気持ちに決着をつけろ!
 そして、二人ともいい加減に前へ進んで歩き出せ」

瀬文は、ただ黙って頷いた。

その夜、瀬文は現実が幻か解らぬまま、
木枯らし吹きさらされたよう冷えゆく心に孤独を感じた。

廃墟のような殺風景な檻の中・・・?
ここはどこだ?





SPECが存在しない世界で、潤ちゃんが瀬文さんの子供ではない理由、
色々と考えました。

映画の中で、里子は血液検査やDNDの鑑定結果を知るまでは
潤ちゃんを瀬文の子供と信じてたと思うんですよね。
だから、このお話の中でも他の男の子供にはしたくなかった。

で、ご都合主義と言われるかも知れませんがこういう理由になりました。

このことを知った瀬文さんはどうするんでしょうね?


では、また。



タグ:瀬文 当麻 SPEC
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