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be with you [あなたと一緒に] 25 [SPEC]

里中から潤のことを聞かされてからというもの
瀬文は自分の中の何かが揺らぎ始めたのを感じていた。

こんな時、いつも傍にいてくれるはずの当麻にも相変わらず連絡が取れないまま
苛立ちとやるせなさが募る日々だけが過ぎて行った。


北風に押されるように当麻は病院の回転扉をぐっと強気に押して入り口をくぐると、
ガラガラとキャリーを引きずりながらそれに迷惑そうな人々には目もくれず
吹き抜けの広いロビーを通りぬけて行く。

病室に近づくにつれ、勢いの良かったその足取りは急に重くなり
ゆっくりと入口の横で立ち止った。

ふーっと大きく息を吐いてから、そっと空いたままの扉から中を覗き込むと
久しぶりに見る瀬文は髪が少し伸び、無精ひげが生えたままでまるで見知らぬ男のようだったが、
不意に浮かびあがる端正な顔は普段と変わりなく無表情で、少しばかり悲しげに眉間を寄せている。

いつもと違う姿に「誰だよ?」と一人突っ込んだだけで、病室には入らずそのまま立ち去ろうとした時、

目を閉じベッドに横たわったまま寝息をたたていた瀬文が
人の気配を感じたのか少しだけ瞼を開けた。

「里子か?」

その声を聞いてビクリとした当麻が足早に立ち去っていったのと入れ違うように青池里子が病室に入ってきた。

「タケール。生きてるか?」

パタパタと潤が付いてくるのを追いかけるように宮野も後から入ってくる。

「これ、オミアイよ」

「お見舞い。。。ですね」とすかさず宮野が突っ込んでいる間に
潤が瀬文のことを不思議そうに見ていた。

「潤ちゃん?」

「パパ?」

瀬文が潤の手を取りそっと握る。

「ちょっとちょっとー、何を勝手に! この人はパパじゃないの、潤」

「みゃーの、潤をお願い」

宮野に連れられて潤が病室を出て行くのを目で追う瀬文の視線上に青池が立ちはだかった。

「里子・・・」

「タケール。里中さんに聞いたんでしょ、潤のこと。
 あなたより仕事を選んだことも、子供が出来たこと言わなかったのも、
 あなたの子供が死んだこと黙ってたことも全部、私の意思。
 幾ら責められても謝るつもりはないわ」

「黙って俺の前から消えたこと、任務のためというなら仕方ない。
 今更責めるつもりはないと言ったろ。
 だがな、お前の幸せが俺の許には無かったというのならそれもいい。
 お前とは共に戦い、同じ歩幅で前に進み、全てをぶつけ合える
 そういう関係だと思っていたのは俺の勘違いなのか?
 子供まで一人で産もうとしたなんて、俺の何が悪かった・・・教えてくれ、里子」

「求めなければ気がすまないくせに、求められることに疲れて
 苦しくて、逃げたのよあなたから・・・。
 二人の関係を、あなたの想いを打ち砕いたのは私。
 だから子供のことは私の我が侭、あなたには何の責任もない」

「お前をそこまで・・・すまん。
 どういう形にせよ、いつかお前を失うかもしれないという不安があったのは確かだ。
 俺もどこかで分かっていたのかもしれんな」

瀬文は血の滲むような後悔が喉から漏れそうになるのを必死で飲み込んだ。
そして自分に出来ることは、もう何もないのだと悟った。

「潤があなたの子でも、そうじゃなくても
 もう元には戻れないし、戻りたいとも思わない。
 それは、タケールも同じでしょ」
 だから、前へ進んで! 捜一に行きなさい」
 
今回の事件の功績なのか、瀬文は捜査一課への異動の打診を受けていた。

「公務員である以上、命令は絶対だ。
 無論辞令が下りればそれに従う。異動する気はないかと聞かれただけだ」

「タケール! あなたはあんな穴蔵にいるべきじゃない。
 刑事として活躍したくないのか?
 どっちにしても退官するまで、異動なしという訳にはいかない。
 私が潤を守りたいようにあなたにも守りたいものがあるのは分かる。
 けど、バディとして隣にいることだけが守ることじゃない」

「きっと・・・、これが里中さんが私の口からあなたに言わせたかったことだと思う」

瀬文にはその言葉が、なだめているようにも、罵っているようにも、必死で呼びかけているようにも聞こえた。

やがて、青池がその表情に笑顔をつくる。

「タケール。もうこの話は終わり。もう私たちのことは気にしないで。
 あたしだってまだ若いんだからいい人がいて、
 潤が気に行ってくれるなら結婚だってするかもしれないんだから」

「今度は、タケールとトゥーマがちゃんと話をする番ね」

「それが・・・当麻とは連絡も・・・」

「ん? トゥーマならさっきそこで見かけたけど」

「えっ?」という顔をした瀬文に背を向けた。

「じゃあ、トゥーマによろしく。ちゃんと前へ進むのよ」

ひらひらと手を振りながら青池は病室を出ていった。


談話室で待っていた宮野は自分の膝の上で眠ってしまった潤の髪を優しげに撫でていた。
瀬文との話を終えた、青池の姿を見つけると宮野は緩んでいた頬を引き締め
寝ている潤の顔を覗き込むようにしゃがんだ青池の耳元で囁いた。

Am I the only person you want?
(僕じゃダメですか?)

Do you think I deserve it?
(私でいいの?)

「過去から卒業して下さい。
 あなたも潤ちゃんも僕が幸せにしてみせます」

そう言う宮野に青池は肯定も否定もせず、チクリと痛んだ胸の痛みを抱えただ真っ直ぐ前を向いた。



『天』で里子さんに姿を消した理由も聞かず、
その時自分がどうしたのかも当時の気持ちも今の気持ちも何も言わなかった瀬文さん。
(ま、潤のことはさすがにすごーく気にしてたけど)
そのあたりのこと聞きたかったなーと思いまして・・・へへっ。

もうね、とっとと里子と宮野でくっついちまえよ!(笑)


では、また。


タグ:当麻 瀬文 SPEC
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