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「Montage」 第二話 幸せな時間 [Montage]


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あの日もこんなふうにセミの声の騒がしかった。

俺が目を覚ました時は、太陽はすでに高く昇りはじめていた。
夏の日差しがまだ覚めきらぬ目に眩しい。

ややぼんやりとした頭のままで、二・三度瞬きを繰り返してから傍らにのチセへと視線を向ける。
枕代わりの俺の腕の中で小さな背中を見せて、かすかな寝息をたてている。
まばゆいばかりの光を受けても目覚める気配はないようだ。

あどけなさすら感じさせる無防備な寝顔、ほんのりと髪の香りが漂ってくる。
思わずその髪に触れ、柔らかな頬にそっとキスをした。

それから、彼女を起こさないようにベッドを抜け出すとキッチンへと向かい
俺は、チセの好きなナポリタンを作ることにした。

がちゃがちゃという俺が立てる音に目を覚ましたのか
キッチンに入ってこようとするチセをリビングへと追いたて
「大丈夫、待ってて」と言ってソファーに座らせる。

チセの様子を気にかけながら、慣れない手つきで包丁を握る。
タマネギが目にしみて困りはしたが、
チセが喜ぶ顔を想像しながら料理するは楽しかった。

「おまたせっ!」

大きな皿を両手に持ち、汗ダクになった俺を見て

「ありがとう、でも待ちくたびれたわ」と彼女は笑った。

穏やかでゆったりとした休日の朝。
たわいのない会話。
チセの笑顔。
何もかもが俺を満たしてくれた。

午後には、二人でチセの誕生日プレゼントを買いに行くことになっていた。

麻のジャケットに身を包みいつもより少しばかりお洒落をしたつもりの俺を冷やかすチセ。
着飾った姿が彼女をいつもよりさらに大人の女に見せていた。

街の中を歩いては立ち止まり、また歩き出す。
そんなチセの後ろを歩いているとある店の前でチセは足を止めた。

「これがいいな」少女のようにチセは少しハニカミながら俺の顔を覗き込む。
彼女が薬指にはめてみた指輪には、星が一つ、その中には小さなキラキラと光る石が埋め込まれている。
俺は、返事の変わりに大きく頷いてみせた。

プレゼント用にラッピングしてもらった指輪のケースを少し気恥ずかしくペーパーバッグに押し込め、店を出ようとした頃には日が西の空に傾きかけていた。

夕食はチセの誕生日だからと、俺は柄にもなく高層階の夜景が綺麗なレストランを用意した。

夜景、それは小さな明かりが無数に集まり織り成す景色。
宝石のように輝き、銀河のように広がる。
ある人には心を癒す優しい灯り、ある人には心を締め付ける灯り。
星の煌めきよりもなお無数のドラマを秘めているのかもしれない。

チセはその瞳にきらめく灯りを映し、
アゴの下で手を組みちょこんと顔を乗せたままじっと窓の外を見ている。
心は遥か遠くにあるかのようだ。

東京駅の灯りがオレンジ色に輝いている。
「チセはどこから来たのだろうか・・・」

ふとそんなことを考えていると、
頼んでおいたバースディケーキが運ばれて来ていた。

ケーキの上にはチセのネームプレートと火の灯されたキャンドルが飾られている。

「ありがとう、煌(コウ)」

「でも、私今日で34才よ。あなたより5つも年上になっちゃったわ」

「ん?」

戸惑う俺に少し寂しそうな顔をした彼女は首を軽く左右にふって
言葉の代わりにキャンドルの灯りを「ふっ」と消した。

それから二人はグラスを軽くあわせ乾杯した。

俺は、広がるワインの香りに誘われるようにゆっくりと目を閉じてその香りに埋没していった。
そのせいなのか、記憶の中の何かが足りない、何かが欠けている。そう感じるのだ。

ただ、帰り道の彼女が何故か少し無口で、
薬指に輝く星が見上げた空のどんな星よりも綺麗だったことだけは今もはっきりと覚えている。

その夜、水に浮かんだキャンドルの甘い花の香りに包まれて
俺は母に甘える子供のようにチセを抱きしめて眠った。


翌朝、俺はあたり一面にたちこめるコーヒーの芳香に誘われたように目を覚ました。

ぼーっと何も考えずベッドの上で窓の外を見る。
緑陰を渡る朝の風に枝葉たちが心地良さそうにそよいでいる。

時間を気にして時計へと腕を伸ばし、
大きなあくびを一つしてようやくベッドの上に起き上がった。

「ねぇ、おきたの?」
まだ、半分寝ぼけた頭にチセの声が聞こえてくる。

「ああ、おきたよ」
俺は一人微笑んだ。

軽く身支度を整え、リビングへ歩いてゆくと
テーブルの真ん中には、昨日庭で見かけた小さな花が一輪、
透明なグラスに飾られている。

カップには、いれたばかりのコーヒーがたっぷりと注がれていて、
その横には白いやや大きめの皿が置いてあり、
その上にはなんとも食欲をそそる焼き色をまとったBaconと
黄身がまだ半熟なのかとても柔らかそうなFried egg、
こんがりと焼かれたパンが乗せられている。

それに白いナプキンとナイフ、フォークがキチンと整えられていた。

俺は、いつものように席につくと朝刊に目を通しタバコとコーヒーを味わっていた。

「ほらっ、新聞とタバコはおしまいにして」
チセの声にハッとして朝食のことを思い出す。

「そうだな、よし」
新聞を傍らに置き掛けていたメガネをはずすと、ナプキンを広げフォークとナイフを手にした。

「いただきます」
パンにBaconとFried eggを乗せて大きな口でかぶりつく。
チセの作ってくれた朝食に夢中になることが嬉しかったのだ。

口にケチャップをつけながら口いっぱいにパンをほおばる俺をチセは呆れた顔で見て
ナプキンで口元を拭おうとしている。

「いいよ、子供じゃないんだから」

そう言いながらも、彼女の前に口元を差し出していた。

牛乳を飲んで汚した口元さえもチセは拭いてくれて

「ありがとっ」
俺は自分の中の無邪気さを楽しんだ。

食事を終え、入れなおしてくれたコーヒーを飲んでいると

「ほら、これ」

チセはおそろいのストラップを俺の目の前に差し出して見せた。

「どうしたのこれ?」

「私が、作ったのよ。なかなかいいでしょ?」
「はい、一つあげる。昨日もらった指輪のお礼よ」

キラキラと光るストラップを握り締め、チセが目の前にいてくれるだけでいい
こんな日常がいつまでも続いて欲しいと心から願っていた。

その時俺は、静かに流れてゆく幸せな時間に恐れを感じていたのかもしれない。

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俺さま(あんまり性格は俺さまではないんですけどね)の名前は「煌」と書いてコウでした。
【きらきらと輝く無数の星】っていう意味が素敵だったので。(へへっ♪)

本当は、二人もっといちゃいちゃしてたんですが、あほらしくなって書き直してしまいました。
終いには、何を書いているんだか自分でも分からなくなってきて、時間かかった割にはねぇ・・・。
とりあえず、この2話を書かないことには先に進めないのでアプしてしまいますが
うーん、ちと不本意な感じは否めませんわ。←そんなんアプしていいの槐?

[余談です]
Fried egg(sunny-side upという表現の方が一般的ですよね)もちろん目玉焼きですが、
これを複数形にすると「かべ女」っていう意味があったりします。(俗語)
なんとなく、納得じゃありませんか? ←やかましい!


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ココ

フライドエッグ…、「かきあげ」みたいな、油で揚げられた卵を想像してたヤツです(やっぱあほ?)

>本当は、二人もっといちゃいちゃしてたんですが、あほらしくなって書き直してしまいました。

にゃは~♪、待っておりましたー。首を長くして。

いちゃいちゃ、会話が多かったりすると余計やってらんないというか、あほらしくなってまいりますわよね。
書いてる本人が一番恥ずかしいというか。

でも、そんなことございませんわ。いつものぶちょさまワールドというか、
これから始まるお話の序曲…。
透明感というか、綺羅を散りばめたような美しさが、今後の痛々しさを増幅させそうなヨ・カ・ン。

DVDにあった同じシーン(恥ずかしいシーンね)、アプしました。
画面二つ開いて読み比べてみたんですが(意外とすぐ終わっちゃう)。
面白かったです~。
多分、同じような文体とか内容だと、辛かったというか、いたたまれなかったかもしれませんが、ぜーんぜんカラーも比重も違うのでふむふむと…。
ベーコンエッグはやっぱり「かぶりつく」のねぇ、なんて。
でも、ぶちょさまのこのシーン、しっかり違和感なく、とっても自然にはまっておりますわ。
愛が溢れてる~(ぶちょさまのじゃなくて、煌とチセちゃんのね)。

キラ(あはっ、ほんと、別の話)、じゃなくて、煌ね。
彼の続きのお話、楽しみにしてます~。
by ココ (2007-10-30 06:42) 

うにゃ改め、かべ女

フライドエッグ・・・なんかムカつく。
「かべ女」って、ひどい、ひどいわ・・・(涙)
納得なんてするもんですか!

俺さまは「煌」さまだったのですね。
クールそうで、素敵なお名前だわ。

>「チセはどこから来たのだろうか・・・」
>記憶の中の何かが足りない、何かが欠けている

どこから来たんですかー?
何が欠けているんですかー?

記憶というものに興味があるので、ワクワクしてしまいます。
きっと、こんな穏やかな二人の時間は、この回だけなのでしょうね・・・。
続きが楽しみです♪
by うにゃ改め、かべ女 (2007-10-30 11:44) 

とんとん

すみませーん。
風邪ひいちまって、またも放置してます。

>ココさま

>DVDにあった同じシーン(恥ずかしいシーンね)、アプしました。
画面二つ開いて読み比べてみたんですが(意外とすぐ終わっちゃう)。
面白かったです~。
多分、同じような文体とか内容だと、辛かったというか、いたたまれなかったかもしれませんが、ぜーんぜんカラーも比重も違うのでふむふむと…。
ベーコンエッグはやっぱり「かぶりつく」のねぇ、なんて。

風邪と仕事で微妙にダウンしてまして、ココさまの感想かけてなくてすいません。

読んでるとほんと面白いですよね。
どーして、同じもの見てこんなにも違うこと書いてるのかねぇ、って。
あまり、ダークな世界ばっかりでも書いてて楽しくないのでつい萌えシーンを入れたくなったり
一気に書けないので書く度に何だか内容が変わっていってる今日この頃です。 ←どうでもいいからはよ書け!
by とんとん (2007-11-04 22:26) 

とんとん

>うにゃさま

ありょ、カベ女の話題はタブーで・・・。
昔はともかく、今じゃすっかりタレ女になったので許してぇ~ ←言ってて悲しいぞー!!

>どこから来たんですかー?
何が欠けているんですかー?

どっから来たのかな? ←考えてないのか?
何が欠けてるんだろ? ←覚えてないのか?

時間を置けばおくほど一貫性がなくなるので頑張って書かなくてはー。
と思いつつ疲れて寝てしまうのだす。←ダメじゃん!!

記憶については、わたしもとても興味があります。
人は覚えていたいことと覚えていたくないことを意識して記憶してるのではなく
無意識に働く何かによって記憶しているような気がしてます。
それが何かという正体が分かったら面白いだろーなー、なんてね。
この先のお話にそんな話が出てきたりして・・・。
by とんとん (2007-11-04 22:37) 

ココ

おはようございま~す。

ぶちょさま、お風邪大丈夫でございますか?
お大事になさって下さいましね。

わたくしもまたちょっとお休み。きょうは葬式行ってまいりますわ。
(わたくしの親戚姻戚のばーさんたちって、100歳超えたか超えないかなんですのよ。わたくしもそーなっちゃうの?)
えーっと、喪服、喪服…っと。

ところで…、記憶って、意識して記憶するのって却って難しいような…。
このことは憶えておこうとか、忘れたいっていうものは、反対になることが多いような気がします。
それと、「記憶は作られる」説も。
ある人が過去の記憶の映像を頭に思い浮かべたら、自分の姿も入っていて、「ああこれは、違うな」、と思ったとか(本来なら、映像は自分の目視したものになる筈だと)。

わたくしが最近気になるのは、情報って、みんなに公平にあふれているけど、すっごーい能力で、自分のアンテナに引っかかるものだけ取捨選択して、記憶するんだなーってことです。
具体的にどういうことかっていうと、みんな「芸者ワルツ」はきいたことあるだろうけど、「なんじゃ、この歌は?」と引っかかる人と、そうでない人がいるとか…。(わたくし、最近の歌って全然引っかからない…)
もっと言うと、「あぁ、わたくしって、エ○のアンテナ、きっと人より高く、または多く立っているのねー」と思うことがあるっつー話です。
by ココ (2007-11-05 06:28) 

ごまきち

コンコンッ!!

コソッ・・・・ε=ε=(o ・ω・)o

ありょっ!?
暫くごまウィルスにやられてお休みしてる間に、すぅ~っかりお部屋が変わっちゃったワンッ!!
・・・ここはどこ!?
・・・わたしは誰!?
バカーンッ!!

バカ犬、復活いたしまたワンッ(● ̄(エ) ̄●)ノ

あぁ~んっ♪
ぶちょってばぁ~っ!!
もぅ、拝読しながらワクワクいたしましワンッ♪
なんか、切なくなりそぅな予感が沸き起こっまいりますわねん。
『煌』(コウ)って、何てステキなネーミングでそ♪
DVDで見たイメージにピッタリなり~
槐との明暗の差が名前に現れておりますわね。

早く拝見したかったんですが、パソ前に座るのも久々でして・・・
犬小屋も崩壊寸前です(涙)
また中々こちらへお邪魔できないとは思いますが、続きを拝見できる日を楽しみにいたしておりますm( __ __ )m
by ごまきち (2007-11-06 22:34) 

とんとん

>ココさま

お蔭様で、風邪だいぶよくなりました。

>ところで…、記憶って、意識して記憶するのって却って難しいような…。
このことは憶えておこうとか、忘れたいっていうものは、反対になることが多いような気がします。

はい、記憶する方法ってのは科学的に説明できるそうですが
自分でも不思議なのは、暗記するってのはそう嫌いでもないのに
何度聞いても覚えられないことがあるんです。
ほんとに、簡単なことなのに。
そのくせ、どーでもいいことは妙に覚えてるんですよ、これが。

自分で記憶をコントロールできたら便利でしょうね。

>わたくしが最近気になるのは、情報って、みんなに公平にあふれているけど、すっごーい能力で、自分のアンテナに引っかかるものだけ取捨選択して、記憶するんだなーってことです。

ふむふむ。
なるほど。
全てを覚えてはいられないから、自然に情報を選別してるんですね。
どうも、わたしの情報のチョイスの仕方、大いに間違っているような気がします。(ガクッ!)

>「あぁ、わたくしって、エ○のアンテナ、きっと人より高く、または多く立っているのねー」と思うことがあるっつー話です。

あら、わたくしそんなことございませんわよー。←アンテナなくても拾ってる?
○ホのアンテナは立ててますけどね。(けけっ)
by とんとん (2007-11-12 23:56) 

とんとん

あら、ゾンビ犬お久しぶぅりぃ~

マッキーにはすっかりさよならしたもんねー。
お部屋の模様替え、壁紙張るの大変だったんだから、
手伝いもしないでどこへ行ってたんじゃー!!

そのうち、
『煌』(コウ)より素敵な人出てくるもんねぇ~。(内緒!)
by とんとん (2007-11-13 00:00) 

ごまきち

えっっ!?

>そのうち、
『煌』(コウ)より素敵な人出てくるもんねぇ~。(内緒!)

誰っ!?
誰誰っっっっ!?
それは誰なりかっっ!?

・・・ハッッ!!
も、もしかして・・・

さ・・・ 沢木先生なんじゃ・・・?

バコーンッッ!! なんでやっっ!!(←ボケつっこみ)
(  ̄(エ) ̄;A 
by ごまきち (2007-11-16 14:59) 

とんとん

>ごまちーん

ふふふっ。←不適な笑み
教えなーい!!

ん? 沢木先生??
あ、ごまちんのちぇんちぇーね。

あの話も後半はお話としては出来てるから
またそのうちねー。←いつのことやら・・・汗
by とんとん (2007-11-18 12:51) 

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