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be with you [あなたと一緒に] 17 [SPEC]

時間は夜の8時を回っていた。

当麻が行きたかったという店は大通りを一本入った静かな路地にあり、
店内は薄暗くロウソクの灯りがあちこちで揺らめいていて
一見するとバーのような独特の雰囲気を醸し出している。

周りはお洒落なカップルばかりで坊主頭に葬式スーツの中年男と
赤いキャリーを引いたぼさぼさ髪にダサいスーツの女は完全に浮いていた。

一緒にいるのが当麻だという事実と、
慣れない場所でのある種の居心地悪さはあるものの、
落ちついた雰囲気と相手との会話を邪魔しない程度の音楽は内心悪くないと思っていた。
ただ、当麻がこの店に案内してきた理由が疑問だったが。

「お前がこんな店、知ってるとは意外だな」

「志村さんと来たんすよ」

「あいつ、よくもまーこんな小汚い女連れて...」
口をついで出たのは皮肉交じりの言葉だった。

「何か、今さらっと失礼なこと言いませんでした?
 残念でした。志村さんと来た時はちゃんと綺麗な格好してましたよ」

「そうかよ!」

「周りの会話は聞こえないし、大体、周りのことなんか誰も気にしてない。そこがいいんすよ」

「そういうことか」

当麻がその答えに対して何も言わないので
疑問はいとも簡単に解決されたのだと思っていた。

「とりあえず、何にします」

と言いつつ一人でメニューを貪り読む姿に呆れつつも
『当麻らしいな』と少し緩みそうになる口許を抑え
「これにする」とほぼ同時に指さしたのは同じものだった。

「気が合いますなぁ。ふふふっ」
気味悪く当麻が笑う。

「違うのにしろ!」

「お前と同じ鍋なんか食えるか!」

「えー、何でですか?」

「俺はまともなモンを食いたいんだ、譲れ!」

「やですよ!」

「黙れ! ブス!」

「ブスじゃねぇし、瀬文さんがいじめるぅ~」

こちらが揉めているのを察したのか
品のよさそうな店員が話しかけてきたので
不貞腐れている当麻を無視して注文を告げると店員がある提案をしてきた。

丁寧に頭を下げて、一度下がっていった店員を目で追うと
自分たちとは違う意味でこの店に似つかわしくない二人連れが店に入ってきたのが目に入った。

暫くして、さっきの店員が申し訳なさそうな顔をして戻ってきた。

「先ほどの件ですが...只今ご用意できないとのことです」

わざとらしく大きなため息を吐きだし、フンと鼻息を荒く噴き出してみたが
状況は変わるわけでもない。

「何ですか、一人用の鍋が出払ってるぐらいで、そんな顔して、
 そのデキてるやつらは一つの鍋を仲良くつっついてやがれ的な殺気は!
 とにかくその殺気しまってくださいよー。
 目立ちますって! でも、それもありかも?」

「おい、それはどうい意味だ?」という疑問に当麻は答えず、

「おまえ、鍋にマヨネーズ直接入れるな!」という忠告を聞くはずもなく、

「えー、マヨチゲ旨いのに」
「マヨチゲ、バカうま、高まるぅ~」

「この味バカ、舌バカ、バカ」

と出来れはしたくもないお決まりの会話を一通りした後、
およそこの世のものとは思えぬ色をした鍋を満足げに平らげた当麻は
デザートに手を付けようとして手を止め、俺の耳元へ少し顔を近づけてきた。

「瀬文さんのことだからとっくに気がついているとは思うんすけど、
 あたしたちさっきから見られてますよね」

「ああ、俺の右後ろのヤツだろ」

「どんなヤツだ?」

瀬文越しに後ろをじっと覗き込む当麻。

「おい、あんまりじろじろ見るな!」

言うのが早いか、当麻の額に拳がクリーンヒットした。

「うっ!
 そうっすね。吉川さんの知り合いって感じで
 背格好も年齢も瀬文さんぐらいっす」」

大げさに額を擦りながら答える。

てことは、さっきの二人連れか?

「派手な女を連れたヤクザか?」

当麻は、大きく頷いてみせた。

「あっ、今あいつと目あっちゃいました」

顔を上げながら焦った顔をしている。

「こっち来ますよ。どうします?」

男は妙な笑みを湛えて近づいてきて、二人の横で立ち止まると

'Poor little girl.' と当麻に囁いた。
(可哀想なお嬢ちゃん)

そして、鋭い眼差しを向ける瀬文と無言で見合ってから
捨て台詞のように言葉を吐いた。

'You piece of shit. You are worse than I am. '
(おまえクズだな、俺より最低な奴だぜ)

'Barking dogs seldom bite.'
(弱い犬ほどよく吠える)

余裕で言い返したがさすがに殺意が湧く。

男は眼鏡の奥で一瞬ちかりと、冷たい無機質な光を走らせ踵を返す。

「なかなか言いますなぁ」
当麻のヤツは声を押し殺して笑っていた。

「あいつ何者だ?」

「釣れましたね」
と当麻が片方の口角を上げるが何の事だか分からずイライラは募ってゆくばかりだ。

「どういうことだ? 説明しろ」

「その前にちょっといいですか。あいつどう見たって、吉川さんの専門すよね」
そう言いつつさっきから携帯を手にしていた当麻は、
吉川にその男の背格好や特徴、それから状況を説明し始めた。

「じゃあ、お願いします。場所とヤツの画像はメールで送っときますから」

こいつ何時の間に、あいつの写真なんか撮ってやがった。
ったく、危ないことしやがって。

「瀬文さん。では、本題に入りますか」

「例の事件の犯人、共通点がありました」

「最初の爆発事故では実はもう一人男が死んでいます。
 そして、風俗嬢を殺した犯人は女・・・」

キャリーからがさごそと取り出した資料には、
どうせお得意のハッキングとやらで拾ってきたのだろう殺人犯の写真と
里子に渡されたマイクロSDカードの画像が並べて添付されている。
それを見る限り、確かに当麻が言うように犯人と被害者の年格好が似通っている。

「そしてもう一つ。犯人は皆、妻子はおろか、親兄弟もいない。
 所謂、天涯孤独ってやつです」

そこまで説明を終えたところで吉川からのメールが帰ってきた。

――そいつは、山王会の若頭で、石原 秀人っちゅう鼻持ちならんやっちゃ。
  あそこの金庫番。まぁ、インテリやなぁ。
  でも金しか信じてない男やでぇ。そいつはヤバイでぇ。
  年は39。かみさんと子供がおるっちゅー話は聞いたがことないのぅ。
  それから、ぬしら勝手に何しとんじゃっ!
  わしがそっち行くまで動くんやない!
  当麻、瀬文のことは任せたで。

当麻は、メールを見て下を向いたままじっと何かを考え込んでいる。

「どうした?」

「真山さんて、独身の中年男すよね。
 石原も吉川さんによれば、多分そう。
 瀬文さんなんて完全にそうだし」

「うるさい、ほっとけ!」

「少なくとも、真山さんと瀬文さんは天涯孤独ってとこまで同じ...」

そこまで言って、裏紙で作ったらしい汚いメモを取り出し、何かを書き始めた。

【真山さんは、警察官-階級は警部補。ほぼ黒ネクタイ、目つきが妖しい】

【瀬文さんは、警察官-階級は警部補、黒スーツに黒ネクタイ、目つきが悪い】

【石原は、ヤクザ、サバスーツにメガネ、目つきが悪い、
 背格好は瀬文さんとほぼ同じ、年齢も同じ】

「どー考えても、瀬文さんてこの二人とかぶるんすよ」

「あの事件の時、真山さん何か言ってませんでした?」

「・・・悪い。本当に何も・・・」

俺にあの時点での記憶などあるはずがない。

「いや・・・待てよ...」

あの事件を思い浮かべた心の奥底で何かがぞわりと蠢き始めたのを瀬文は感じていた。

この記憶はどれだけ本当で、一体どこからこの世界の光景を覚えているのか?
そんな疑念の答えを得られぬまま、
あちこちに切り散らかされたフィルムのようなぼんやりとした記憶の欠片が少しづつ繋がっていく。

どこからか聞こえた当麻の声・・・
あの日の情景・・・
浅倉と呼ばれる男の顔・・・
真山の姿・・・
真山の最後の言葉・・・

強い光。
暗い空の向こうの燃えるような紅。
ぞっとするような美しい笑顔。
まっすぐに男に向けられた銃。
引き金を引く音。
『お前は神じゃねぇ』という声。

にじんでゆく当麻の顔・・・それが浮かんで
夢うつつに目を閉じたまま、眉間に皺を寄せていた瀬文がカッと目を見開いた。

「瀬文さん?」

当麻はただならぬ雰囲気に顔を強ばらせると
血の気のない顔が一段と青白くなる。

この記憶が本当だとしたら、何だと言うのだ。
今回の事件と関係があると言うのか。
俺がこの世界に存在することにどんな意味があるというのだ。

瀬文は怖いぐらいの無表情で、真っ直ぐ当麻を見つめていた。










UPするのが遅くなってしまいました。その分、長いです。 m(__)m

今回は、謎を解いてるんだか、増やしてるんだか分からない展開ですね。
伏線張ったり、回収するのはホント難しいです。
頭の中の妄想をそのまま言葉にするだけでは読んでる人は意味不明になってしまうという
当たり前のことに今更気付いて、自分にはハードルの高いことやり始めたと反省しつつも続きます。(笑)

石原さんて、秀人って言うんですね。あら、なにげにカッケー!
石原さん、大好きです。(←って、バレンタインも過ぎたのになに告白しとんのじゃ)
禁断の中の人のネタですが、今回は内容上特別に登場していただきました。
単純バカの警察官とインテリやくざ...とても同じ人とは思えません。
二人がバチバチと視線を合わせたらと考えるだけで萌えまする。(←バカです。自覚あります)

では、また。


タグ:SPEC 当麻 瀬文
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