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be with you [あなたと一緒に] 21-1 [SPEC]

当麻が消えた・・・。

無数の八咫烏に運ばれていった当麻の姿を思い出した瀬文の心の中が闇で覆い尽くされていく。

「当麻!! どこだ?」

焦る心とは裏腹に静かな空間にただ時だけが刻まれていくのだった。

『大事なものを失くした場所』

大事なもの?
俺にとって大事なものは何だ?

やがて、曖昧な感情がはっきりとしたものに変わる。
そして、酷く残酷な指の名残がその場所を知らせた。

それは、冷たい喪失が終わりのない始まりを告げた場所。

「あそこだ!」

瀬文は一人叫んで駈け出した。
身体が自然に動いていたのだろう、視界の揺れで自分が走り出したのに気付いたほどだ。

『当麻、無事でいろ!』そう心の中で祈り続けて
電波塔へとつづく階段を駆け上がっていった。


階段を上りきって、目にしたのはぐったりと意識もなく座り込んでいる当麻の姿と
煌々と輝く満月を背にして立つ、ぞっとする程の美しさを持った青年だった。

青年は天使のような悪魔の微笑みを湛えていた。、
その微笑みに人は心を奪われ、破滅へ誘われるのだ。
満月のように人の心を狂わせ、犯罪へ導き死へ誘(いざな)うのだ。

瀬文もまた、その微笑みに魅入られた一人だった。

「瀬文さん、お久しぶり」

そう言う青年の顔は、見覚えのあるものだった。

「おまえは! あの時の・・・。
 当麻に何をした!」

「何もしてないって、おーこわっ」

青年は、軽く上げた両手を左右に振りながらふんと鼻先で笑った。

「浅倉てめぇ」

「まあまあ、そう怒らないで。
 色々とヒントをあげたのに気付かないあんたが悪いんでしょ」

「当麻を放せ! じゃないと撃つ!」

「だから、落ち着けって。
 あんたに俺は撃てないよ。嘘だと思うなら撃ってみなよ。
 あんた死ぬことになるよ」

これが、当麻が言っていた。
マインドコントロールというやつなのか。

『瀬文さんは監禁されてたんですよね。その時の記憶ないんですよね。
 それって、何らかのキーワードで行動を起こすように
 マインドコントロールされている可能性があるってことですよ』

瀬文は、そう言った当麻の言葉を思い出していた。

「それより、いい加減色々と思い出してもらおうか。
 瀬文、真山を殺したのはお前だ。さあ、思い出せ!」

記憶はどれだけほんとうか、一体全てを覚えているものなのか、
事実かも知れない記憶を思い出した途端
記憶の底からその幻につながって現れたのは、

閉ざされた牢獄のような世界。
夢うつつに見た当麻の笑顔。
確かに感じた当麻の感触。
歪んでゆく景色と強い光に導かれるようにはじけ飛んでゆく光の粒。

あの日の情景・・・。
真山の声・・・。

「おい、瀬文撃て。俺に当たっても構わん、なんなら俺も一緒に殺せ」

撃てなかった。
状況を飲み込めていない俺の判断が遅れたせいで真山は死んだ。

殺される瞬間、真山はけだるげに面を上げ、立ち上る紫煙を目で追いかけた。
その先に誰かを見たのだろうか・・・。

俺はいつの間にか数人の男達に囲まれていた。
鈍い痛みと共に記憶が途切れ、目を覚ましたのは病院のベッドだった。

心に強く刻まれたところだけをきっとこうして甦らせて、
覚えていないところは思い出すこともできずにいるのかも知れない。

気がつけば、自分のこめかみに銃口を当てたまま俺はその場で立ち尽くしていた。




タグ:瀬文 当麻 SPEC
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