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be with you [あなたと一緒に] 21-2 [SPEC]

『とうまー!』

瀬文の心の叫びに呼び覚まされるように当麻が意識を取り戻した。

『・・・うっ』

後頭部に痺れるような痛みが走るが、抉じ開けるようにして重い瞼を開く。
ぼんやりとした景色がはっきりとしたものになってゆくと目の前の光景に息を吞んだ。

当麻の目の前に飛び込んできたのは、見知らぬ青年と
自分のこめかみに銃口を突きつけている瀬文の姿だった。

「瀬文さん・・・?」

声を発するのと同時に駆け寄ろうとして身動きできない自分に気がついた。

そして、もう一人の男の顔を見てさらに大きく目を見開いた。

さっきまで見覚えのなかった青年の顔の下から現れたのは、忘れる筈もない男の顔だった。

「セカイ!」

――ん? セカイ? 何故、当麻がこの男を知ってる?

「なんで、おまえがここに?」

「さあな」

セカイは相変わらずの薄笑いである。

「てめぇの狙いはあたしだろうが! 瀬文は関係ない!」

興奮する当麻に対して、セカイは相変わらずの薄笑いである。

「関係なくはないだろう。瀬文はゲームの大事なコマの一つなんだからさ。
 憤怒、wrath、狼、天涯孤独の男。どうだ、ぴったりの人選だろ?」

「で?
 8つ目の罪とされる『正義』・・行き過ぎた正義はあたしのことってか?
 そんなら自分の考えが絶対に正しいと思い込んでる、てめぇもだろうが!」

「いい度胸だ。褒めてやる」

「ぐっ・・・くそっ・・・」

身体を動かそうとして身をよじる度に、縛られている所が一層の熱を帯びる。

「殺したきゃ、あたしを殺せばいいだろ!
 血の果てだろうが、地獄の果てだろうがつきあってやる」

「でもその前に青池さんの居場所を教えろ!」

「青池里子・・・なら、ここだ」

何かのデバイスを取り出し画面を軽くタップして見せる。

「一つの罪一つのペアが完成するごとに爆弾を一つ仕掛けた。
 青池里子は最後の爆弾と一緒だ。
 このスイッチ一つで起爆装置が起動する。一つ試しに起動してやろうか?」

「やめろ! このうすぎたない犯罪者が!」

息を荒くした瀬文がいきなり叫んだ。
引き鉄を引こうとする自分の右手を左手で抑え込んでいる。

「あらら、びっくり」

驚いたというよりはもはやセカイは呆れ顔である。

「マインドコントロールなんてもんは俺には効かねぇ! 俺の精神力をなめんな!
 お前は一体、何がしたい?」

セカイの顔を覆っていた微笑が消えた。

「今回は人間の身体を持ってみて人間がどんなに愚かで滑稽な生き物なのか更によく分かったよ。
 今この時も、懲りもせず戦争だテロだのと殺戮が繰り返されている。
 所詮、絶望と崩壊に向かっている。このスイッチを押さなくても、いずれこの世界は終わる」

言い返えせない真実に当麻が悪態をつく。

「どうやって甦ってきた、このゾンビ! 地の底へ帰りやがれ!」

「おいおい、当麻だけには言われたくないぞ。寧ろ『神』とでも呼んで欲しいね。
 お前こそ、もう一度地獄へ堕ちろ!
 お前が消えても、何事もなかったかのように時は流れていく。
 お前は永遠に存在しなくなる」

「お前は神なんかじゃねぇ、だから俺はお前を殺す!」

瀬文は今にも爆発してしまいそうな怒りを鎮めるように大きく息を吐いた。

「確かにこの身体なら殺せるが・・
 そんなことをしたら、青池里子は死に、東京は火の海だ。
 それが嫌なら、俺ではなく当麻を殺せ!」

「今、再び当麻を撃て!」

嘲笑うようなセカイの声が闇夜に響く。 
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be with you [あなたと一緒に] 21-1 [SPEC]

当麻が消えた・・・。

無数の八咫烏に運ばれていった当麻の姿を思い出した瀬文の心の中が闇で覆い尽くされていく。

「当麻!! どこだ?」

焦る心とは裏腹に静かな空間にただ時だけが刻まれていくのだった。

『大事なものを失くした場所』

大事なもの?
俺にとって大事なものは何だ?

やがて、曖昧な感情がはっきりとしたものに変わる。
そして、酷く残酷な指の名残がその場所を知らせた。

それは、冷たい喪失が終わりのない始まりを告げた場所。

「あそこだ!」

瀬文は一人叫んで駈け出した。
身体が自然に動いていたのだろう、視界の揺れで自分が走り出したのに気付いたほどだ。

『当麻、無事でいろ!』そう心の中で祈り続けて
電波塔へとつづく階段を駆け上がっていった。


階段を上りきって、目にしたのはぐったりと意識もなく座り込んでいる当麻の姿と
煌々と輝く満月を背にして立つ、ぞっとする程の美しさを持った青年だった。

青年は天使のような悪魔の微笑みを湛えていた。、
その微笑みに人は心を奪われ、破滅へ誘われるのだ。
満月のように人の心を狂わせ、犯罪へ導き死へ誘(いざな)うのだ。

瀬文もまた、その微笑みに魅入られた一人だった。

「瀬文さん、お久しぶり」

そう言う青年の顔は、見覚えのあるものだった。

「おまえは! あの時の・・・。
 当麻に何をした!」

「何もしてないって、おーこわっ」

青年は、軽く上げた両手を左右に振りながらふんと鼻先で笑った。

「浅倉てめぇ」

「まあまあ、そう怒らないで。
 色々とヒントをあげたのに気付かないあんたが悪いんでしょ」

「当麻を放せ! じゃないと撃つ!」

「だから、落ち着けって。
 あんたに俺は撃てないよ。嘘だと思うなら撃ってみなよ。
 あんた死ぬことになるよ」

これが、当麻が言っていた。
マインドコントロールというやつなのか。

『瀬文さんは監禁されてたんですよね。その時の記憶ないんですよね。
 それって、何らかのキーワードで行動を起こすように
 マインドコントロールされている可能性があるってことですよ』

瀬文は、そう言った当麻の言葉を思い出していた。

「それより、いい加減色々と思い出してもらおうか。
 瀬文、真山を殺したのはお前だ。さあ、思い出せ!」

記憶はどれだけほんとうか、一体全てを覚えているものなのか、
事実かも知れない記憶を思い出した途端
記憶の底からその幻につながって現れたのは、

閉ざされた牢獄のような世界。
夢うつつに見た当麻の笑顔。
確かに感じた当麻の感触。
歪んでゆく景色と強い光に導かれるようにはじけ飛んでゆく光の粒。

あの日の情景・・・。
真山の声・・・。

「おい、瀬文撃て。俺に当たっても構わん、なんなら俺も一緒に殺せ」

撃てなかった。
状況を飲み込めていない俺の判断が遅れたせいで真山は死んだ。

殺される瞬間、真山はけだるげに面を上げ、立ち上る紫煙を目で追いかけた。
その先に誰かを見たのだろうか・・・。

俺はいつの間にか数人の男達に囲まれていた。
鈍い痛みと共に記憶が途切れ、目を覚ましたのは病院のベッドだった。

心に強く刻まれたところだけをきっとこうして甦らせて、
覚えていないところは思い出すこともできずにいるのかも知れない。

気がつけば、自分のこめかみに銃口を当てたまま俺はその場で立ち尽くしていた。




タグ:瀬文 当麻 SPEC
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be with you [あなたと一緒に] 20 [SPEC]

10分ばかり車を走らせ、古い倉庫街を通り過ぎたところで
吉川は何かに気づきブレーキをかけた。

遠くに見える、突如灯りが消えた雑居ビル。





隠れ家的と言えば聞こえはいいが、賑わいとは程遠い人通りもあまりないような寂れた場所、
いわゆる『場末の酒場』といういうやつだ。

入口のドアを開けばすぐにカウンターに行きつく狭い店内は、
壁のけばけばしい赤いビロード風の生地が艶をなくしている。

薄明りの中に立つ、長い黒髪。細い腰。
すらりと伸びた形のよい脚が惜しげもなく晒されている。
こぼれるような艶めかしさというのではなく、瑞々しさの中にひっそりと色香を含んだような女。

その女の前に座る一人の男以外には客らしき姿はない。
艶のあるスーツを身に纏った男は
能面のように表情がない端正な顔に冷ややかで静かな狂気を漂わせている。

「ねぇ、秀人」

女は親しげに話しかけながら、琥珀に満たされたグラスをカタリと揺すってカウンター越に男の前に差し出す。

ほんの一瞬見せる少し陰のある寂しげな表情、
ベッドの中でしか見せない縋るような目、
そういういつもは誰にも見せないような顔をしたあなたが好きなのだと
胸板に耳をあてた時に聞こえてくる啜り泣きような心の叫びが愛しいのだと
声には出さす、女は呟いた。

「なんだ?」

男はネクタイを緩め、シャツのボタンを1つ2つ外してからグラスを手に取る。

琥珀の液体が喉に流し込まれる度に、ゴクリと上下する喉仏を女は黙って見ていた。

乱暴に眼鏡をはずし、手で大きく顔を覆った頃、やっと女が話を続けた。

「清々しいまでに孤独に浸る姿ね。何かあった?
 あたしなんかに、言う訳ないか...」

「そういえばあの店であんたが話しかけた男って、どことなくあんたに似てたわね。
 あの男、一緒にいた娘(こ)殴ったりして不機嫌そうに見えたけど・・・ふふっ。
 少なくとも、あの娘のこと凄く愛してるわね。
 分かるのよ、あたしにはね。素直じゃないのよね、きっと二人とも」

「素直に抱いちまえばいいだけだろ、女なんて」

「素直じゃないのは、あたし達も負けてないと思うけど・・・」

「おいおい、好きだの嫌いだの言い出すんじゃねぇだろうな?
 止めてくれ! 俺は女なんか信用しちゃいねぇ。誰も信用しちゃいねぇ」

「フン! 本当は苦しいくせに、いきがってんじゃないわよ!
 『馬鹿でなれず、利口でなれず、中途半端でなおなれず』ってヤクザがよく言うけど
 馬鹿で、お利口で、半端者のあんたは所詮ヤクザになんか向いてないのよ」

「殺されたいのか?」

「殺したいなら、殺しなさいよ!」

女は怒りの中に憐れみを含んだ目を向けた。

「うるせぇ! お前だけはそんな顔すんじゃねぇ」

男が殴りかかった女の手首を掴んだ時だった。

「ガシャン!」

窓が割れる音と共に辺りに煙が充満し、電源が落ちた。



灯りが消えた雑居ビルを目指して吉川と当麻が狭い路地を走る。


中から出てきた厚みの無い上半身、少し重心を左右に揺らして歩く影。

「あれ、石原やないか!」吉川が叫ぶ。

パンと乾いた音が辺りに響き渡る。

ビルの外にまで立ち込める煙。

血と硝煙の匂い。

女の悲鳴。

「逃げろ! お前は生きろ!」

男の掠れた声。

「I'm really glad I・・met・・・you.」(お前と出会えて良かった)

とぎれとぎれに最後の言葉を言い終えると、鮮血を撒き散らしながら女の腕に倒れ込む。

「ひ・で・と・・・」

みるみる広がってゆく血だまりを女はただ茫然と見つめていた。

食うか・・・食われるか・・・
そこでしか生きられない闇の生き物のように
いつ自分が食われる側に回るかもしれない恐怖に慄きながら
それでもその世界を離れようともせす
愛されることにも愛することにも背を向けて生きた
哀しい男の最期だった。

それを見ていた当麻の目には、目の前の二人の姿に瀬文と自分を重ねたのか
うっすらと涙まで浮かんでいる。

「せ・ぶ・み・・・さん」

「当麻、しっかりせんかい。
 そいつは瀬文やない。瀬文は死んだりせん」

吉川に軽く頬を叩かれ、目に光を取り戻した当麻が叫ぶように口を開く。

「こんな男でも殺すことはねぇだろう! 浅倉の野郎!
 人の命を何だと思ってやがる。許せねぇ」

「あたしは石原を釣ったんじゃない。
 本当はそうするように仕向けられてた。むしろ釣られたんだ」

「そうか・・・、狙いは瀬文さんなんかじゃない!」

当麻の声に重なるように
石原の懐に手を伸ばし取り出した銃をコメカミに当てた女が呟いていた。

「ひでと・・・。あたしも一緒に行くよ・・・」

それに気づいた吉川が駆け寄る。

ほんの一瞬の差だった。
リボルバーから空気を切る音が聞こえて、この世から哀しい女が消えた。

「当麻、見るな!」

そう言って振り向いた時。どこにも当麻の姿はなかった。

「当麻、どこへ行きおった?
 そうや、瀬文に電話や!」

大きな独り言を言いながら懐から携帯を取り出した。

「瀬文。すまん、当麻が消えよった」



未詳では、吉川からの電話を受けた瀬文が慌てていた。

「なに? そこはどこだ? わかった、今すぐ行く」

通話を切ったばかりの携帯が手の中で再び着信を告げた。

画面には《餃子女》の文字。

「当麻か?」

「狼さん、遊びましょ♪」

「誰だお前?」

この言葉を直ぐには理解できず瀬文は顔をしかめ、
当麻の言葉を必死に思い出す。

『《狼》「憤怒(激情)」WRATHは、きっと瀬文さんです』

「浅倉か? 当麻はどこにいる?」

「大事なものを無くした場所。あんたは知ってるよ」

それだけ言って電話は切れた。

瀬文の頭の中でジリジリとした刺激が広がっていった。







石原さんが好き過ぎました。
石原さんの世界ならいくらでも書けそうです。(笑)
でも、いい加減この辺で死んでいただかないと話が進まない・・・。
さようなら、石原さん。(・_・。)グスン

次回こそは、瀬文さんが活躍してくれると思います。多分。きっと・・・。

では、また。


タグ:SPEC 当麻 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 19 [SPEC]

「石原が「強欲」で瀬文さんが「憤怒」・・・二人は直接関係ない・・・なら・・・
 じゃあ、瀬文さんを誰が? 真山さん?」

「当麻、さっきから何一人でブツブツ言うとるんや?
 真山はもう死んどるでぇ」

「それじゃあ、真山さんを殺したのは瀬文さん?」

「そんなアホな!」

「う~ん。石原は・・・トラップ?・・・だとしたら・・・」

吉川の運転する車の助手席で、当麻は目を閉じ頭の中で解を導き出そうとしていた。

「もう・・・殺されてるかもしれませんねぇ」

突然、カッと目を見開くとぼそりと言葉を吐き出した。





見知った顔でもいるのか、それとも元マル暴の感か
吉川は無遠慮にドアを引き開け、ドカドカと一軒の店へと入っていく。

けばけばしい女たちと安っぽいインテリア。
下世話な会話と品のない音楽が後ろから付いて行った当麻の耳にも否応なしに飛び込む。

吉川は入口にいた若い男と少しばかり会話を交わし
そいつが視線を送った先にいる男に近づいていく。

煙草の煙の向こうには一見して、それと分かる風貌の男。
椅子に深く腰をかけ、長くもない足を組んでいる。

男は吉川を見つけるなりやれやれという顔をしてから
後ろに立つ当麻をチラリと値踏みするように見た。
睨みつけたところを逆に睨み返されたが、そんなことに怯む当麻でもない。

「女連れとは珍しいですなぁ、吉川さん」

咥えていた煙草を踏みつけながら声をかける。

「こいつは、こう見えても刑事じゃボケっ!
 それより、石原を見んかったか!」

「石原? 山王会のか? 知らねぇ、なあ」

鼻で笑いながら答える男の胸座を掴み、吉川は自分の方に引き寄せる。

「なら、あいつを狙うとるヤツを知らんか?
 さっさと吐け! いてもうたるぞ!」

「そんなもんわかりゃしないですよ。
 あいつを狙ってる野郎なんてゴマンといるんでねぇ!」

「それじゃ、あいつが連れとる女はどこの誰や? どこにおる?」

「女?」

一瞬、眉間に皺を寄せたがすぐにもとのヘラヘラとした笑い顔に戻る。

「誰のことだか分かりませんねぇ。
 あいつを相手した女もゴマンといるんでねぇ。
 大体、あいつは女なんか信用してない
 金しか信用してない野郎ですぜ。
 2日と同じ女といるはずもねぇ」

いつの間に取り出していたのか、当麻が向けた銃口が男のコメカミにめり込んでいる。

「物騒な真似はよして下さいよ」

男は両手を軽く上げ、軽く振っておどけて見せた。

「なめくさった話ばかりしやがって、このチンピラが!」

詰め寄る吉川に身じろぎ一つせず、言い返す。

「そこまで言うなら、石原と女を探してる理由を言えよ! 吉川さんよぅ。
 なんかあるんだろう?」

「仲間を・・・」

「石原と一緒にいた女を探してんだよ! 仲間の命がかかってんだよ!
 教えろよ! あんた何か知ってんだろ!」

当麻が、肩を震わせながら言い放った。

「当麻、やめとけ!」

このままでは埒が明かない。
吉川は焦ってはいたが慌てなかった。
威圧的ではあるが静かに話し始める。

「早くしねぇと、石原も女も殺される・・・二人ともな」

「石原もヤグザの端くれだ。いつか殺されることなんかあきらめてんだろうが、
 これはヤクザの抗争なんかじゃねぇ。せめて女だけでも助けてやりたいんじゃ」

「そうか・・・俺も昔・・・、そうだな、あんたになら教えてやるよ」

男は、壁に貼ってある日焼けた地図のある1点を目で示した。

「女のいる店だ、石原もきっとそこにいる。 早く行け!」



タグ:SPEC 当麻 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 18 [SPEC]

吉川が慌てて店に飛び込んできた時には、
石原は何食わぬ顔で女を連れて出て行った後だった。

瀬文と当麻の横を一瞥をくれただけで通り過ぎ過ぎてゆく二人が
何をした訳でもなく、ただ黙って見送ることしかできなかったのだ。

警視庁の建物の中なら奴らもさすがに手は出せないだろうという
吉川とパンチーズの護衛付きで二人は別々のルートで未詳へと戻ってきた。
それは不気味なほど何事もなく拍子抜けするほどであった。

瀬文は事の成り行きに不機嫌を募らせていた。

「なあ、当麻。何で俺をあの店へ連れて行った?
 ただ、何か食いたかったって訳じゃねーよな。
 釣れたってのはどういう意味だ?」

「説明要りますか?
 腹へったってのも嘘じゃないですし、
 雰囲気が良かったから、何て言っても信じませんよね。
 そうですよ、もし本当に瀬文さんが狙われているのなら、
 誰かが、何らかの形で接触してくる。それを待ってたんすよ」

「それって、やっぱり俺をエサにしたってことか?」

「珍しく冴えてますな、瀬文さん」

「・・・らしいな」

分かっていたことではある。
しかしこうはっきりと言葉にされるとさすがに腹が立つ。

いつのまにか当麻は仮眠スペースに習字セットを取り出していた。
黙々と墨をする。
いつもの当麻の儀式である。

ようやく瀬文は当麻に目を向ける。

頼んだぞ、当麻。

吉川もまた黙って当麻を見守っていた。

静かに目を閉じ精神統一した後、大きく目を見開き、
半紙の上に筆を走らせる。

『さあ、ゲームの始まりです』

『大柄で髭面のホームレス』
『胸に《蠍》のタトゥの風俗嬢』
『巨漢のグルメリポーター』
『クレイマーのモデル』

『消えた青池さん』

『浅倉』

『天涯孤独の中年男』
『真山』
『石原』

一旦、筆を置いてチラリと瀬文を見てから最後のキーワードを書いた。

『瀬文』

半紙をビリビリに破って上に向かって放り投げる。

桜吹雪のような半紙片の中に凛として立つ当麻。

やがて、波動関数上の解が導き出されるように物語の筋書きが明らかになっていく。

「いただきました!!」

「分かったのか?」じれた瀬文が声を発した。

「浅倉はいわゆる『サイコパス』」

「サイコパス?」

「極端な冷酷さ、エゴイズム、感情の欠如、犯罪に対して罪悪感も後悔の念もない。
 まさに、最悪の犯罪者っすよ」

「瀬文さんは監禁されてたんですよね。その時の記憶ないんですよね。
 それって、何らかのキーワードで行動を起こすように
 マインドコントロールされている可能性があるってことですよ」

堰を切ったように話し始めた当麻に男二人は付いていけない。

「もう少し俺にも分かるように話してくれ」

「つまり、それって殺される寸前だったってことです。
 思い出せませんか?
 何か言葉に反応しません?」

「だ・か・ら。棺桶に片足つっこんでるっつーの!」

「当麻、落ち着け!」

瀬文に軽く頬を叩かれ我に帰った当麻は、大きく息を吐き出した。

「殺人犯の自殺は、浅倉のマインドコントロールによるものだと思います。
 犯人が殺人を犯したのに特に意味はなく、ただ浅倉に操られていたんだと。
 浅倉の目的は分かりません。
 ただ、犯行の動機がテロなのではなく、もっと個人的なところにあるように思うんすよ。

 そして、その殺人の意味は、『七つの大罪』です。『セブン』です。

 『大柄で髭面のホームレス』は《熊》、つまり「怠惰」SLOTH。 
 『風俗嬢』は《蠍》、つまり「色欲」LUST。
 『巨漢のグルメリポーター』は《豚》、つまり「暴食」GLUTTONY。
 『クレイマーのモデル』は《孔雀》、つまり「傲慢」PRIDE。
 『石原』は多分《狐》、「強欲」GREED。

 そして、《狼》「憤怒(激情)」WRATHは、きっと瀬文さんです」

「じゃあ、残りの「嫉妬」ENVYは?
 まさか青池さん?
 そうだ、さっきの女・・・。
 ほら、石原が連れてた女ってどことなく青池さんに似てませんでした?」

「そういえば・・・」

女の姿を思い出した瀬文の表情が、見る見る曇っていく。

「里子が危ない!」

「石原の周辺を洗えば、あの女の居所が分かるかも知れません。
 吉川さん願いします。 あたしも一緒に行きます」

「瀬文さんは、係長や宮野に連絡して下さい。
 青池さんは、必ずあたしが助けます。
 だから、大人しくここで待ってて下さい。
 後で、必ず連絡しますから・・・」

当麻は、何か言いたげな顔でじっと見る瀬文を牽制する。

「だが・・・」

「ここは、大人しく当麻の言うこと聞いとけや!」

吉川の言葉に強気に言い返すだけが策ではないことを悟ったのか瀬文が素直に応じる。

「分かった・・・。何かあったらちゃんと知らせろ!」

「吉川、当麻を頼む」

「おうよ!」

無事で戻れ。そう祈るようように向けられた瀬文の視線を吉川はしっかりと受け止めた。

当麻は浅倉の正体がつかめないもどかしさを抱えながら
目に見えない、不吉な何かの力、運命のようなものをその時予見した。






1週間も空いてしまいました。m(__)m
PCの調子が悪くて、直す時間もないし、とまあ書く時間もなかったんですけどね。

さて、「七つの大罪」は思ったとおりでしたか?
簡単過ぎました?

浅倉の目的は何なんでしょうかねぇ。
石原の出番、終わりっすか?
吉川さん、活躍しねーな。
とか、色々ありますねぇ。( ̄▽ ̄)

と、これは元々一体全体何の話だったのかと疑問を持ちつつそれでも続きます。はい。

では、また。


タグ:瀬文 当麻 SPEC
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be with you [あなたと一緒に] 17 [SPEC]

時間は夜の8時を回っていた。

当麻が行きたかったという店は大通りを一本入った静かな路地にあり、
店内は薄暗くロウソクの灯りがあちこちで揺らめいていて
一見するとバーのような独特の雰囲気を醸し出している。

周りはお洒落なカップルばかりで坊主頭に葬式スーツの中年男と
赤いキャリーを引いたぼさぼさ髪にダサいスーツの女は完全に浮いていた。

一緒にいるのが当麻だという事実と、
慣れない場所でのある種の居心地悪さはあるものの、
落ちついた雰囲気と相手との会話を邪魔しない程度の音楽は内心悪くないと思っていた。
ただ、当麻がこの店に案内してきた理由が疑問だったが。

「お前がこんな店、知ってるとは意外だな」

「志村さんと来たんすよ」

「あいつ、よくもまーこんな小汚い女連れて...」
口をついで出たのは皮肉交じりの言葉だった。

「何か、今さらっと失礼なこと言いませんでした?
 残念でした。志村さんと来た時はちゃんと綺麗な格好してましたよ」

「そうかよ!」

「周りの会話は聞こえないし、大体、周りのことなんか誰も気にしてない。そこがいいんすよ」

「そういうことか」

当麻がその答えに対して何も言わないので
疑問はいとも簡単に解決されたのだと思っていた。

「とりあえず、何にします」

と言いつつ一人でメニューを貪り読む姿に呆れつつも
『当麻らしいな』と少し緩みそうになる口許を抑え
「これにする」とほぼ同時に指さしたのは同じものだった。

「気が合いますなぁ。ふふふっ」
気味悪く当麻が笑う。

「違うのにしろ!」

「お前と同じ鍋なんか食えるか!」

「えー、何でですか?」

「俺はまともなモンを食いたいんだ、譲れ!」

「やですよ!」

「黙れ! ブス!」

「ブスじゃねぇし、瀬文さんがいじめるぅ~」

こちらが揉めているのを察したのか
品のよさそうな店員が話しかけてきたので
不貞腐れている当麻を無視して注文を告げると店員がある提案をしてきた。

丁寧に頭を下げて、一度下がっていった店員を目で追うと
自分たちとは違う意味でこの店に似つかわしくない二人連れが店に入ってきたのが目に入った。

暫くして、さっきの店員が申し訳なさそうな顔をして戻ってきた。

「先ほどの件ですが...只今ご用意できないとのことです」

わざとらしく大きなため息を吐きだし、フンと鼻息を荒く噴き出してみたが
状況は変わるわけでもない。

「何ですか、一人用の鍋が出払ってるぐらいで、そんな顔して、
 そのデキてるやつらは一つの鍋を仲良くつっついてやがれ的な殺気は!
 とにかくその殺気しまってくださいよー。
 目立ちますって! でも、それもありかも?」

「おい、それはどうい意味だ?」という疑問に当麻は答えず、

「おまえ、鍋にマヨネーズ直接入れるな!」という忠告を聞くはずもなく、

「えー、マヨチゲ旨いのに」
「マヨチゲ、バカうま、高まるぅ~」

「この味バカ、舌バカ、バカ」

と出来れはしたくもないお決まりの会話を一通りした後、
およそこの世のものとは思えぬ色をした鍋を満足げに平らげた当麻は
デザートに手を付けようとして手を止め、俺の耳元へ少し顔を近づけてきた。

「瀬文さんのことだからとっくに気がついているとは思うんすけど、
 あたしたちさっきから見られてますよね」

「ああ、俺の右後ろのヤツだろ」

「どんなヤツだ?」

瀬文越しに後ろをじっと覗き込む当麻。

「おい、あんまりじろじろ見るな!」

言うのが早いか、当麻の額に拳がクリーンヒットした。

「うっ!
 そうっすね。吉川さんの知り合いって感じで
 背格好も年齢も瀬文さんぐらいっす」」

大げさに額を擦りながら答える。

てことは、さっきの二人連れか?

「派手な女を連れたヤクザか?」

当麻は、大きく頷いてみせた。

「あっ、今あいつと目あっちゃいました」

顔を上げながら焦った顔をしている。

「こっち来ますよ。どうします?」

男は妙な笑みを湛えて近づいてきて、二人の横で立ち止まると

'Poor little girl.' と当麻に囁いた。
(可哀想なお嬢ちゃん)

そして、鋭い眼差しを向ける瀬文と無言で見合ってから
捨て台詞のように言葉を吐いた。

'You piece of shit. You are worse than I am. '
(おまえクズだな、俺より最低な奴だぜ)

'Barking dogs seldom bite.'
(弱い犬ほどよく吠える)

余裕で言い返したがさすがに殺意が湧く。

男は眼鏡の奥で一瞬ちかりと、冷たい無機質な光を走らせ踵を返す。

「なかなか言いますなぁ」
当麻のヤツは声を押し殺して笑っていた。

「あいつ何者だ?」

「釣れましたね」
と当麻が片方の口角を上げるが何の事だか分からずイライラは募ってゆくばかりだ。

「どういうことだ? 説明しろ」

「その前にちょっといいですか。あいつどう見たって、吉川さんの専門すよね」
そう言いつつさっきから携帯を手にしていた当麻は、
吉川にその男の背格好や特徴、それから状況を説明し始めた。

「じゃあ、お願いします。場所とヤツの画像はメールで送っときますから」

こいつ何時の間に、あいつの写真なんか撮ってやがった。
ったく、危ないことしやがって。

「瀬文さん。では、本題に入りますか」

「例の事件の犯人、共通点がありました」

「最初の爆発事故では実はもう一人男が死んでいます。
 そして、風俗嬢を殺した犯人は女・・・」

キャリーからがさごそと取り出した資料には、
どうせお得意のハッキングとやらで拾ってきたのだろう殺人犯の写真と
里子に渡されたマイクロSDカードの画像が並べて添付されている。
それを見る限り、確かに当麻が言うように犯人と被害者の年格好が似通っている。

「そしてもう一つ。犯人は皆、妻子はおろか、親兄弟もいない。
 所謂、天涯孤独ってやつです」

そこまで説明を終えたところで吉川からのメールが帰ってきた。

――そいつは、山王会の若頭で、石原 秀人っちゅう鼻持ちならんやっちゃ。
  あそこの金庫番。まぁ、インテリやなぁ。
  でも金しか信じてない男やでぇ。そいつはヤバイでぇ。
  年は39。かみさんと子供がおるっちゅー話は聞いたがことないのぅ。
  それから、ぬしら勝手に何しとんじゃっ!
  わしがそっち行くまで動くんやない!
  当麻、瀬文のことは任せたで。

当麻は、メールを見て下を向いたままじっと何かを考え込んでいる。

「どうした?」

「真山さんて、独身の中年男すよね。
 石原も吉川さんによれば、多分そう。
 瀬文さんなんて完全にそうだし」

「うるさい、ほっとけ!」

「少なくとも、真山さんと瀬文さんは天涯孤独ってとこまで同じ...」

そこまで言って、裏紙で作ったらしい汚いメモを取り出し、何かを書き始めた。

【真山さんは、警察官-階級は警部補。ほぼ黒ネクタイ、目つきが妖しい】

【瀬文さんは、警察官-階級は警部補、黒スーツに黒ネクタイ、目つきが悪い】

【石原は、ヤクザ、サバスーツにメガネ、目つきが悪い、
 背格好は瀬文さんとほぼ同じ、年齢も同じ】

「どー考えても、瀬文さんてこの二人とかぶるんすよ」

「あの事件の時、真山さん何か言ってませんでした?」

「・・・悪い。本当に何も・・・」

俺にあの時点での記憶などあるはずがない。

「いや・・・待てよ...」

あの事件を思い浮かべた心の奥底で何かがぞわりと蠢き始めたのを瀬文は感じていた。

この記憶はどれだけ本当で、一体どこからこの世界の光景を覚えているのか?
そんな疑念の答えを得られぬまま、
あちこちに切り散らかされたフィルムのようなぼんやりとした記憶の欠片が少しづつ繋がっていく。

どこからか聞こえた当麻の声・・・
あの日の情景・・・
浅倉と呼ばれる男の顔・・・
真山の姿・・・
真山の最後の言葉・・・

強い光。
暗い空の向こうの燃えるような紅。
ぞっとするような美しい笑顔。
まっすぐに男に向けられた銃。
引き金を引く音。
『お前は神じゃねぇ』という声。

にじんでゆく当麻の顔・・・それが浮かんで
夢うつつに目を閉じたまま、眉間に皺を寄せていた瀬文がカッと目を見開いた。

「瀬文さん?」

当麻はただならぬ雰囲気に顔を強ばらせると
血の気のない顔が一段と青白くなる。

この記憶が本当だとしたら、何だと言うのだ。
今回の事件と関係があると言うのか。
俺がこの世界に存在することにどんな意味があるというのだ。

瀬文は怖いぐらいの無表情で、真っ直ぐ当麻を見つめていた。










UPするのが遅くなってしまいました。その分、長いです。 m(__)m

今回は、謎を解いてるんだか、増やしてるんだか分からない展開ですね。
伏線張ったり、回収するのはホント難しいです。
頭の中の妄想をそのまま言葉にするだけでは読んでる人は意味不明になってしまうという
当たり前のことに今更気付いて、自分にはハードルの高いことやり始めたと反省しつつも続きます。(笑)

石原さんて、秀人って言うんですね。あら、なにげにカッケー!
石原さん、大好きです。(←って、バレンタインも過ぎたのになに告白しとんのじゃ)
禁断の中の人のネタですが、今回は内容上特別に登場していただきました。
単純バカの警察官とインテリやくざ...とても同じ人とは思えません。
二人がバチバチと視線を合わせたらと考えるだけで萌えまする。(←バカです。自覚あります)

では、また。


タグ:SPEC 当麻 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 16 [SPEC]

「・・・そうか。わかった。よろしく頼む」
電話を切って瀬文は大きく深呼吸した。

「ふぁあ~。せ、ぶみさん?」
いつの間にか寝ていたらしい当麻が瀬文の声に目を覚まし眠そうに声をかける。

「起きたのか?」

「つーか、いたんすか?」

「なんだとぉ! 普通こういう場合、自分だけ帰らんだろう」

「瀬文さん」

「何だ!」

「はらへりました」

「しょがねー、何か買ってきてやる」

「瀬文さん」

「だから、何だ!」

「ダメっす、待って下さい」
それは当麻から反射的に出た言葉だった。

「あのなー、当麻。俺を守るってのは閉じ込めておくことじゃねー。
 それじゃ、里子と大してやってること変わんねーだろうが」

ったく、当麻のくせに、女々しいこと言ってんじゃねぇぞ。

「里子はなー、お前のその頭脳に俺を託したんだ。
わかってんのか? 里子の思いなめんな!」

「もう、朝から...里子、里子って、うっさ~にゃ、おみゃーは」

「違いますよー。何また朝から一人で熱くなってんすか?」

「なんだと?」

「行く前に注文聞いて下さい。牛丼がいいっす。特盛り10個。あと卵もおねげぇしやす」

少しは感謝の意味を込めたつもりの言葉など当麻に伝わる筈もなかったのだ。

「てめぇ!」

すかさず瀬文の拳が当麻めがけて飛ぶ。

「ぐえっ! そういえば、今の電話?」
額を擦りながら、思い出したように当麻が言った。

「ああ、宮野だ。里子はまだ見つかっていないそうだ」

「そうっすか。心配っすね」

「当麻、そんな顔すんな。

 牛丼買いにいったまま、帰って来ないとかそんなことはしない」

「当たり前っす。そんなことしたら腹減って死にます」

「・・・」
瀬文は、わなわなと拳を握りしめている。

「瀬文さん?」

「今度は、何だ!」

「今晩、ちょっと付き合って下さい。そいで奢って下さい」

何でそうなるんだ? と呆れたが
無邪気な顔をしてにっこり微笑む当麻を見て、まあ、今回はしょーがねーかと思った瀬文は
「わかった」とコートを掴んでさっさと出て行った。

「うっす」と何かを含んだ笑みを当麻が浮かべていた。




今回は長いんで、分けます。
続きは、また後でUPしますね。
うっ、眠い。また明日UPしますね。
内容のないままの途中で終わっててすいません。

では、また。


タグ:瀬文 当麻 SPEC
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be with you [あなたと一緒に] 15 [SPEC]

かれこれ2時間は経ったろうか、
自分の席で腕を組んだまま、瞑想するかのようにじっとしていた瀬文がうっすらと目を開ける。
時計をちらりと見て席を立ち、二人分の珈琲を淹れると、
その一つを当麻の机にトンと置く。

「飲むか?」

「あざーっす」

「少し休憩しろ」

「そうっすね」
そう言いながら首と肩をゴキゴキと回した後、
いつものようにたっぷりと珈琲にはちみつを注ぐ。

「肩でも揉むか?」
モニターを見たまま答える当麻に声をかける。

「いいですよー。気持ち悪っ! 地味にセクハラっすか?」

「黙れブス!」
眠気覚ましとばかり、デカい声を一発おみまいする。

「で、どうだ?」

「いろいろ分かってはきたんですけどねー、
 自殺した殺人犯たちに関しては、もう少し情報が欲しいってところです」

「なぁ、当麻。ちょっといいか...」
再びモニターに目を落としかけた当麻に言いにくそうに話を始める。

「なーんすか?」

「志村のことだが...。お前、あいつと結婚するのか?」

「それなら、あいつを幸せにしてやってくれ。
 もし泣かすようなことがあったら、俺が許さん!」

「あのー、瀬文さん?
 それって、男に言う台詞ですよねー」

「な~んか、勘違いして一人で盛り上がってるところ悪いんすけど
 あたしは、誰とも結婚なんてする気ありませんよ」

「じゃあ、なぜ志村と付き合ってる?」

「別に付き合ってませんよ。
 ちょっとだけ、普通の女の子みたいな気分を楽しんだりしたのも事実ですけど
 ただ、時々一緒にお茶したり食事したりしてるだけです。
 誘われるんでありがたく御馳走になってるだけです」

「それを一般的には付き合ってるって言うんじゃないのか?」

「そうっすか?」

「瀬文さんだって、たま~に、まれにだけどCBCで奢ってくれるじゃないですか。
 あれって、ひょってしてデートなんです?」

「あれは仕方なくだ。断じてデートなんかじゃねぇ!」

「そうですよね。そういうことです」

「大体、恋なんてのは、脳に分泌される化学物質のせいで、
 ドキドキするのは、アドレナリンの出過ぎが原因だし、
 気分が高まったり、めちゃめちゃ嬉しかったりするのはドーパミンの仕業、
 気になる人のことが頭から離れないのは、セロトニンが足りないだけ。
 それだけのことです」

「なんだそれは?」

「志村さんていい人ですよね。
 なのに青池さんのこと聞き出すようなことをしたのは自分でもどうかと思います。
 だから、こんなあたしなんか相手にしないで幸せになって欲しいと思ってます。
 そのことはちゃんと伝えました」

――「ごめんなさい。どうしても隣にいたい人がいるから...。
   二人の人生の先が重ならないことは分かっているけど、
   それでも共に居られる時間を、ただ隣にいて前を向いていたい。
   だから誰とも結婚なんてする気はありません」

「お前だって、一応は若い女だ。
 好きな男と結婚して家庭を持つとか、そういう普通の幸せ欲しくないのか?」

「じゃあ、瀬文さんは、何でその年で独身なんですか?
 モテないんですか? そうじゃないですよねぇ。
 自分こそ青池さんと結婚でも何でもして幸せになればいいじゃないですか!」

「俺は刑事だ。いつ死ぬかわからん」

「あたしだって刑事だよ!」

当麻は椅子から立ち上がって、瀬文を睨みつけた。

その時、瀬文の携帯が着信を告げ、それを受けた瀬文の様子が慌てたものに変わる。

「瀬文さん?」

「宮野からだ。里子が姿を消した」

「青池さんが?」

里子と連絡が取れなくなったのはこれで2回目だ。
まさか、今度こそ...。

慌てて走って出て行こうとした瀬文を当麻が止めた。

「瀬文さん、待って下さい。
 今、ここで瀬文さんがむやみに動いたらダメです。
 心配なのは分かりますけど、
 宮野から電話があったということは既にSIROが探している筈ですから」

「しかし・・・」

「瀬文、冷静になれっつってんだよ!」

振りあげた当麻の手を瀬文が掴んだ。

「なにすんだよ! 放せよ!
 あんたのこと心配してんのは青池さんだけじゃねーんだよ!
 これだから、バカは嫌いなんだよ!」

当麻は湧きあがってきそうな何かを、必死で押しとどめた。

瀬文は手繰るように僅かに潤んだ当麻の眼の奥を見つめようとしていた。
ただ、間近で、確かな光を放つ美しいそれを、飽きもせず眺めたいと
僅かに震えるその身体をこの手で抱きしめたいと思ったが
必死にその自覚に背を向けて平静を装った。

「あたし分かってますよ。
 瀬文さんがそんな風に遠い目をしてる時、あたしを見ながら他の誰かを思ってるんだってこと。
 (一体、その心の中には誰がいるんですか?)」

当麻の言葉が俺の神経をどこかでふわりと撫でたのかもしれない。
堪らなくなって、心の中でその細い身体を抱きしめた。

当麻の耳に瀬文の噛み殺した嗚咽が聞こえてくる。

「瀬文さんは、ホント泣き虫っすな」

当麻の手が幼い子をあやすように瀬文の背中をそっと撫でた。

「お前の言う通りだ。すまない。俺は卑怯な男だ。
 だから、決してお前が女として残念だとかそういうことではない」
それは絞り出すように小さな声だった。

「もういいですから! 謝らないで下さい。
 そんな風に謝られると...なんか惨めな気分になりますって...」

「とにかく今日は大人しくしてて下さい」

さすがの瀬文も己の情けなさに呆れて思わず溜息をつき、小さく首を縦に振った。









せっかくいい雰囲気になったのに、瀬文さん、あんたが残念だよ。(爆)

瀬文さんて、ルックスも性格も悪くないけどモテそうな気がしなくて
私的イメージは「残念な男」なんですよね。
合コンでも「命捨てます」ってやっちゃうような人(里中さん談)なんですもん。
バレンタインにも美鈴ちゃん以外からチョコ貰ってそうな感じがしない。
つーか、チョコ持ってる瀬文さんが想像できない。
実は大量のチョコ貰ってたんだろうか??

謎説きと言いながら、今回は事件の謎についは進展してません。(-_-;)

それでも、志村さんのことについては一応、解決したのかな?
志村さん、いくら「へたれ」だつったって、一応SITの隊員なんだし、
守ってくれるだろうし、優しそうだし、背も高いし、結構いい男だし、
幸せになれそうですけど、物足りないだろうな、当麻にはね。
志村さんが可愛そう。当麻、酷い女だなぁ。(笑)

では、また。


タグ:SPEC 当麻 瀬文
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be with you [あなたと一緒に] 14 [SPEC]

公園で起きた爆発事故が事の発端だった。

その爆発事故に巻き込まれ死亡したホームレスが金と一緒に握っていた一枚の紙。
そこにはテロの予告とも取れる内容が書かれていた。
しかし事件の情報は伏せられ、表向きにはただの事故として処理されている。

犯行声明代わりの『テロの予告状』にSIROが動き出したが、
その後もテロらしき事件は起きていない。

同じように金と一緒に一枚の紙を握っていた女の遺体が山中で発見された。
しかし、その紙には何も書かれてはいなかった。

その後、犯人と思われる人物が特定されたが捜査の途中で自殺している。

更に、グルメリポーターとモデルが次々と殺され、
この二人もまた金と一緒に白紙の紙を握っていた。

やはり犯人と思われる人物が自殺している。
被害者にも犯人にも共通点がなく、犯行の手口もバラバラで連続事件の可能性を示しているのは
被害者が金と一緒に握っていた紙だけだ。
未だ事件の真相はわかっていない。

テロに関しては、もはや単なる『愉快犯』の仕業ではないかと思われ始めた頃、
警視庁内からの『浅倉を追え』という謎のリークを受け、
例の事件関係者である俺がSIROに呼ばれたという訳だ。

里子は、俺が『事件の鍵を解く、何らかのキーを握っている』と言うが
それが何なのか皆目見当もつかない。

「青池さんがあんなに心配してた訳っすね。
 本気で瀬文さんを守ろうとしてたのにすぐに未詳に戻ってきちゃって
 瀬文さんはホントにバカですなぁ」

「そんなことより、くれぐれも係長と吉川には今はこのこと言うなよ」

「分かってますよ。情報を漏らしたことが知られると青池さんがヤバいんでしょ」

「青池さんの為にも、全力を尽くします」
当麻は瀬文に向かって真顔で敬礼した。

「それとこれは里子からだ」
いつもの紙袋から綺麗にラッピングされた小さな箱を手に取った。

「これって瀬文さんへのプレゼントじゃ?」

「いいから開けてみろ!」

不思議そうな顔をしながらそれを受け取った当麻。
包みを開けると指輪のケースが入っており、その中身はマイクロSDカードだった。

早速、PCへ読み込むと、2つのフォルダが現れ、
その1つをクリックすると被害者が握っていたと思われる紙の画像が表示された。

「最初の一枚以外は、本当に白紙じゃないですか? おかしくないっすか?
 おかしいっすよね?」

「・・・そうだな」
当麻の操るPCを瀬文は後ろから覗きこむ。

もう1つのフォルダには被害者の発見時の画像が集められていた。

「やっぱり最初のも事故に見せかけた殺人ってことですかねぇ?」

「爆発事故に巻き込まれ死亡したのは大柄で髭面のホームレス。
 握っていた紙はあちこち焼け焦げてますけど、「さあ、ゲームの始まりです」という文字が読み取れますな。

 山中で発見された風俗嬢は、下着姿で絞殺。
 その女のボンバーな胸には《蠍》のタトゥ有り。っと」

「うひょー、エロいっすなぁ。ねぇ、瀬文さん?」

「俺に同意を求めるな!」

バコッ!!

「いってぇなー!」

「グルメリポーターは巨漢で、遺体は飲食店の裏のゴミ置き場?に捨てられてますね。

 モデルの髪には目を惹く孔雀の髪飾り。
 この人? 有名なクレイマーじゃないっすか」

「無差別テロにしては、爆発は最初の事件だけだし、
 う~ん。被害者たちそのものが何かを現しているのかもしれませんなぁ?」

瀬文はただ、当麻を見守るしかなかった。

カタカタというキーボードの音と、時折叩きつけるようにエンターキーを押す音だけが未詳に響く。





えーっとですねぇ。
今後の展開に必要なので、ここから事件の謎解きが加わります。
お暇だったら解いてみて下さいませ。
ま、勘のいい方ならもう分かったりして...。
意外と複雑かもしれませんのでうまく回収できなかったらすいません。
先に謝っておこうっと。(←オイ!)

それと、志村さんの件は次回明らかになります。


タグ:瀬文 SPEC 当麻
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be with you [あなたと一緒に] 13 [SPEC]

リフトが動く音。
ガラガラ...バタバタ...はふはふ...?

「おぁはうようごはいはふぅ」

「??」

ゴキッ!

「なにしやがはふぅ」

「てめぇ、肉まん咥えたまんま来んじゃねぇ!」

「瀬文くん、今日も朝から絶好調で機嫌悪いよねぇ」
野々村は気付かれぬようにそっと後ずさる。

「おぅ、触らぬ瀬文に祟りなしじゃわい!」
吉川&パンチーズは、いない振りを決め込んでいる。

野々村と吉川&パンチーズはいつも以上のハゲしい未詳名物〔殴り愛〕を確証していたが
実際には《絶対零度の視線&殺気》VS《凶悪面&舌打ち》の冷戦が繰り広げられることとなった。

終日、息をひそめていた野々村と吉川&パンチーズが
やれやれと帰って行ったのを待っていたように瀬文が動いた。

「当麻、話がある」

「何すか?」

「一日中、般若みたいな顔してないで言いたいことがあるならはっきり言って下さいよ!」

「だ・か・ら、今言おうとしている!」
「里子の話なんだが...」

「げっ! あたし相手にのろけようってか?」

「他の連中には言わないという約束で聞いて欲しい」

「さては、もう既に潤ちゃんの弟か妹できちゃいましたか?」
「こうなったら、迷ってないで早く結婚しなっせ。幸せになりなっせ」
とわざとらしい瞬き、いやウインクをして見せた。

「おい! お前こそ志村とそのだなー」

「しましたよ」

「ん? し、しました? やっぱり、そうか...あは...はは...」

「何すか、その引きつったようなやらし~笑い方は?」

「うおっ! いってぇー!」
「当麻、何しやがる!」

「今、何考えた? このエロハゲ!」

「俺は、ハゲじゃねぇ!」
「エ、エロは...まぁ、しょーがねーだろが!」
瀬文はゆでタコよろしく耳まで真っ赤である。

「そこは認めんのかい!」
「おっさん、キモッ!!」

「瀬文さんが考えてるようなことはしてませんよ。
 したのは話です。ちゃんと話しました。この先のこと」

「そうか、それで?」

「って、いいんですよ。あたしのことは!」

「瀬文さん、話があるんでしょ」
「青池さんと何かあったんですか?」
「この間、瀬文さんが休みの日に彼女ここへ来ましたよ」

「里子が?」

「青池さん、瀬文さんのこと本気で心配してました。
 詳しいことは言えないけど瀬文さんのこと守って欲しいって。
 助けてあげて欲しい。って私に頭を下げました。
 怖いくらいに目が真剣でした」

「彼女や潤ちゃんやその妹or弟or両方?の為にも命を大事にして下さい」

「おい! 勝手に俺を子沢山にしてんじゃねぇぞ!」
「言っとくが、里子と俺は今はそんな関係ではない。 潤も俺の子ではない...らしい」

「らしいって、何だよ!」

「まあ、お前に信じてもらう必要もないがな」
「そして、里子に何を頼まれたかは知らないが、刑事に私情は禁物なんだろ!
 お前に守ってもらうつもりなどない!」

「あたしは刑事として、仲間として、守るべき時は守るべきものを守る。それだけです」

「そうか、なら。刑事としてのお前に頼みがある」
「実は・・・」

と瀬文は里子から聞いた情報を当麻に話し始めた。





うおっ! 加瀬さんと戸田さんが同じメーカーのCMに出てた。
どうせなら同じのに出てくれたらよからぬ妄想をする気満々です。(笑)

欝気味よりは機嫌悪いのがデフォな瀬文さんとか
くだらない二人の「言い愛」(←ワザとです)とか
自覚のないヤキモチ発言をする当麻が見たくなりまして...。
子沢山の瀬文さんも見て見隊かも?(←オイ!)

私的には瀬文さんは、ムッツリスケベですが、
ドラマ本編の前半では結構エロ発言してましたよね。
なので、今回は認めてもらいました。(*^_^*)

では、また。
タグ:SPEC 当麻 瀬文
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